長引くコロナ禍の下、かなりの頻度で手指消毒をなさっていると思います。
この手指消毒のエタノールを含むアルコール製剤が、カレッジリングの主にオプション加工に影響 を及ぼしている事が判明しました。
2021年頃より「ストーン上エンブレムのぐらつき 又は 外れ」「エナメル着色の退色 又は 剥離」の修理依頼が多数寄せられております。これらの事象には、ほぼ例外なく「黒美仕上げの退色」も伴っております。
弊社カレッジリングのエンブレムは、エンブレム裏にねじ上のポスト(棒)を立て、石に穴を開けてねじ込み、工業用二液式接着剤で接着してあります。更にエンブレム角の衣服への引っ掛かり防止と接着補強の目的で、エンブレム周囲を透明樹脂で覆ってあります。エナメル着色も、エナメルの上に釉薬(うわぐすり)として高硬度透明樹脂でカバーしてあります。
ねじ状のポスト
ストーンにポスト直径と同じ大きさの穴開け
2色のエナメルの上に透明樹脂の保護膜
修理依頼された品を見ると、共通してこれらの樹脂が剥離・融解しており、黒美仕上げの退色(黒色が薄くなるなど)も伴った事象になっています。この透明樹脂は、一般的な日常では使用されない有機用溶剤(アセトン・トルエン・シンナーなど)やパーマ液や白髪染めなど強酸性液・又は強アルカリ性液では容易に融解しますが、手洗い洗剤・消毒液などでは融解しないはずでした。
しかし長引くコロナ禍の下、高頻度の手指消毒でアルコール製剤がリングに付着し、アルコール製剤に微量に含まれる成分が年単位で蓄積する事で、樹脂を脆くしている事が判明しました。
弊社では、アルコール製剤の協会に問合せ、以下の見解を頂きました。
手指消毒用アルコールは、主成分エタノール以外に以下のような成分が含まれている。
アジビン酸は、可塑剤(物質を柔らかくする)作用がある。
「クエン酸系液」は弱アルカリ性だが、蓄積すると強アルカリ性に近づく。
酢酸はアセトンなど有機溶剤と類似する化合物である。
そもそも主成分のエタノールは、れっきとした有機溶媒の1種に数えられ、様々な物質を溶解させる能力を持つ。
このように消毒液には、樹脂やエナメル、黒美仕上げを脆弱化する成分が多く含まれますが、コロナ禍以前の日常では、医療従事者か食品工場従業者以外を除き手指消毒の頻度も高くなく、その影響も軽微だったのですが、長引くコロナ禍で高頻度の消毒液がリングに接し、年単位で蓄積する事でエンブレムのぐらつきや外れ、エナメルの退色や剥離、黒美仕上げの剥離につながっているものです。
以下は納品後、寝る時以外常時着用され、高頻度で手指消毒をされていらっしゃったお客様のリングで、トップのエナメル保護膜が融解し、黒美仕上げがかなり薄くなっています。
もちろん、このような場合はPhilip College Ringにお預け頂ければ、メンテナンス&ケアを行い、エナメルと保護膜の再形成、黒美仕上げの追加を致します。
しかし、まだ終息の見えないコロナ禍の下、同様の高頻度での手指消毒をされ、それがリングに付着する事で、再び同じ事象になる事は明らかです。
そこでエナメルやエンブレムのオプションがついているカレッジリング・チャンピオンリングのユーザー様におかれましては、手指消毒をされる際にはリングを外す、若しくは消毒液がリングに直接掛からないようにするなどの配慮を頂けますようお勧め致します。
また、非常に基本的な事柄ですが、カレッジリング・チャンピオンリング以外の一般的なファッションリングや結婚指輪でも、食品工場従業者・調理従業者・医療従事者等、手指消毒や洗浄の頻度の高い職場では「指輪の着用禁止」 となっています。これは、指輪と指の間に菌の付着があったりするとともに、消毒薬(主にエタノール)が宝石や装飾に悪影響を与えるからです。
しかし、弊社からユーザー様がどのような場面でリングをご着用されるかは制約する立場にはございません。
また、ターコイズ・タイガーアイなど多孔性の石は、アルコール製剤の付着蓄積で退色・変色の可能性がありますのでご注意下さい。
標準仕様のカレッジリング
エンブレム等のオプションの付いていない標準的なカレッジリングでは、高頻度の消毒液付着は黒美仕上げが薄くなる程度の影響です。
2022年2月 Philip College Ring 代表取締役 渕上 祥司